コンドームより高い避妊効果や、 月経痛や出血量の改善が期待できる「低用量ピル」
どんな薬?どう飲むの?心配なことは?
低用量ピルってどんなもの?
低用量ピルは、女性ホルモンと呼ばれる卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)を成分に含む薬です。
女性のからだを持つ人が、1日1錠、毎日ほぼ同じ時間に服用を続けることによって、避妊効果が期待できます。 また、卵巣を休め、子宮内膜を厚くしないため、月経痛など月経トラブルの改善にも役立ちます。
日本の低用量ピルは、避妊目的の経口避妊薬(OC : Oral Contraceptive)と、 月経痛や経血量が多いなどの月経トラブルに対して保険処方されるLEP(Low dose Estrogen Progestin)があります。
経口避妊薬とLEPの違い
LEP(月経困難症治療薬)は海外では主に避妊薬として認可されていますが、日本においては治療目的のみでの処方となります。 成分は経口避妊薬と同じものもあれば、違うものもあります(フリウェルULDなどの「超低用量ピル」と呼ばれるものは、経口避妊薬の低用量ピルよりもホルモンの量が少ないものとなります)。詳しくは主治医に確認・相談の上、どの低用量ピルを服用するかを決めることができます。
▷避妊目的で飲む場合: 経口避妊薬
・健康保険が適用されない自由診療(全額負担)
・価格は1ヶ月分2000円~3000円ほど(医療機関によって異なります)
・薬剤名:マーべロン、トリキュラー、ファボワール、ラベルフィーユ、アンジュなど
▷月経トラブルの治療目的で飲む場合:LEP
・保険が適用される保険診療(3割負担)
・価格は1ヵ月分600円~2500円ほど
※上記に診療代等が追加され、定期的に通院する必要があります
・薬剤名:ヤーズ、ドロエチ(ヤーズのジェネリック)、ルナベルLD/ULD、フリウェルLD/ULD(ルナベルのジェネリック)、[連続投与タイプ]ヤーズフレックス、 ジェミーナ
通販サイトの海外製の低用量ピルは大丈夫?
日本国内で正規に流通している医薬品、化粧品や医療機器などは、医薬品医療機器等法に基づいて品質、有効性及び安全性の確認がなされていますが、個人輸入される外国製品にそのような保証はありません。通販サイト等で海外の並行輸入品の低用量ピルが取り扱われていることもありますが、偽物の薬である可能性があります。また万が一、副作用が強く出てしまった場合には、医薬品副作用被害救済制度で国からの補償が受けられない可能性があります。
なお、並行輸入品の転売は犯罪になります。他の人が買ったり、もらったと思われる薬の服用は避けましょう。
詳しくは⇒ 医薬品等を海外から購入しようとされる方へ (厚生労働省)
低用量ピルの飲み方
▷飲み始めるタイミング
低用量ピルは月経(生理)1日目から飲み始めると、その日から避妊効果が得られるます。他のタイミングで飲み始めた場合は、最低7日間飲み続けると避妊効果が得られます。月経トラブルへの効果が出るまでには個人差があります。1日1錠、毎日ほぼ同じ時間に服用をします。
妊娠を望むタイミングや、IUSなど他の避妊法をしたいと思ったら、医師に相談して服用をやめることもできます。
低用量ピルの効果
▷避妊
コンドームによる避妊(年間避妊失敗率2%~13%)よりも高い避妊効果(低用量ピルの場合は年間避妊失敗率0.3%~7%)があります。
月経がはじまって1日目に低用量ピルを飲み始めた場合はその日から、それ以外の場合は低用量ピルを飲み続けて7日間経つと、避妊効果が得られるようになります。正しく服用できていれば、休薬期間中も避妊効果は続きます。
ただし、低用量ピルには性感染症の予防効果はないので、性感染症予防効果のあるコンドームと組み合わせることでより安心な性行為に繋がります。
⇒詳細は、性感染症へ
⇒他の避妊法について知りたい人は、避妊へ
▷月経トラブルやPMSの改善
低用量ピルは、月経痛や、月経前のイライラなどのPMS(月経前症候群)、経血の量が多いなどの月経トラブルの改善に効果があります。月経血が少なくなることで、貧血や、子宮内膜症の予防にもつながります。
月経周期が整い、 月経日がいつくるかが予測できるので、予定を立てやすくなります。また、あらかじめ計画的に低用量ピルを服用することで、月経日を移動する事もできます。そのため、部活や試験、旅行などの大切な予定と月経が重ならないように、もしくは重なってもその影響が少なく過ごすことができます。 (月経移動のやり方は、下記Q&Aをご参照ください。)
▷その他の副効用
ホルモンバランスの乱れによるニキビや肌荒れの改善の他、他にも卵巣がん、大腸がん、子宮体がんの発症を抑制することなども副効用としてわかっています。
低用量ピルの副作用
低用量ピルに含まれるホルモンは、もともと多くの女性の体にあるもので、近年ホルモン量もより少なく改善されていますが、人によっては副作用が出る場合もあります。
▷低用量ピルの副作用はどんなことがある?
低用量ピルのよくある副作用として、 飲み始めの時期に吐き気や頭痛、 不正出血(月経ではない腟からの出血)、むくみ、胸の張りなどがあると言われていますが、全くない場合もあり、個人差が大きいです。
また、気を付けたい副作用として、血栓症のリスクがわずかながら上がることがあります。低用量ピルに含まれる卵胞ホルモン(エストロゲン)には、血液を固まりやすくする働きがあります。血栓症は、血管内に血の塊ができて血管をふさいでしまうことによって起こり、時に生命にかかわる重篤な状況を引き起こす病気です。
海外の研究では、血栓ができる人の割合は、低用量ピルを飲んでいる人は年間1万人当たり3〜9人(服用なしでは同1~5人)。一方で、妊娠中では 年間1万人当たり5〜20人,分娩後12週間では 年間1万人当たり40〜65人と報告されています。
血栓症の初期症状と思われる体調の変化があった場合は、すぐに低用量ピルの服用を止めて、かかりつけの医師に症状を相談して下さい。
血栓症の初期症状(まえぶれ)
・ふくらはぎの痛み・むくみ・手足のしびれ
・刺すような胸の痛み、突然の息切れ、胸部の押しつぶされるような痛み
・激しい頭痛
・急に目が見えにくくなる
・舌のもつれ など
また、低用量ピルの服用により、乳がんのリスクがわずかながら上がる可能性、子宮頸がんのリスクがやや上がることが分かっています。乳がん・子宮頸がん共に検診により早期発見・治療が可能ながんであるため、定期的な検診を行いましょう。
▷吐き気や頭痛などの副作用はいつまで続く?
飲み始めの時期に吐き気や頭痛、 不正出血(月経ではない腟からの出血)などの「マイナートラブル」は、低用量ピルを1~3ヵ月飲み続けることで、体が慣れて治まることが多いと言われています。また、主治医などに相談して、低用量ピルの種類を変える事で改善する事もあります。
▷低用量ピルを飲むと不妊になる?太る?
長い期間にわたって低用量ピルを服用しても服用後の妊娠には影響しないと言われています。ピルの服用を止めると1〜3ヶ月間かけて自然な月経周期を回復し排卵がおこるようになります。
また、飲み始めにむくみやすくなったり、食欲が増えることもありますが、多くの研究から低用量ピルの服用と体重増加には直接的には関係がないと分かっています。
低用量ピルの種類
低用量ピルには、21錠タイプ、28錠タイプ、連続内服タイプと飲み方が異なるものがあります。また、その他にも含まれるホルモン量が違いにより種類があって、副作用の出方も違います。気になる症状や体質にあったものなど医師に相談して選ぶことができます。また、月経困難症治療薬のジェミーナやヤーズなどの「超低用量ピル」と呼ばれるものもあります。これらは低用量ピルよりもホルモンの量が少ないものです。避妊効果について不安な場合も、あわせて相談しましょう。
低用量ピルは何歳の人が飲める?
WHOの指針によると、月経(生理)が始まった人は低用量ピルを飲んで良いとされています。ただし、偏頭痛や喫煙歴、高血圧や糖尿病などの持病、40歳以上などの理由で飲めない場合もあります。
▷未成年は服用できる?どんなメリットがある?
未成年でも低用量ピルを服用することができます。避妊を目的に服用する事はもちろん、例えば月経痛がつらくて勉強や部活に集中できないといったトラブルを改善することができます。また、月経が入試や試合などの大事なイベントに重ならないように低用量ピルや中用量ピルで月経を移動させるといったこともできます。
▷ 未成年の場合、保護者の同意は必要?
保護者の同意が必要かどうかは、医療機関の方針にもよるので事前に電話などで確認しておくと安心です。また、保険証を使うと、保険適用のピルは3割負担となる一方で、保険加入者(保護者)に、医療機関名とかかった医療費の通知が送られます。
低用量ピルを飲みたくても保護者に止められるという声もよく聞きます。
フランスでの低用量ピルの内服率は33%で、世界中で多くの人たちが飲んでいる安全な薬です。そういったデータを見せることで、安心してもらえるかもしれません。参考:国連 避妊法2019(Contraceptive Use by Method 2019)
低用量ピルのよくあるQ&A
Q. 低用量ピルは、内診なしで処方してもらえる?
低用量ピルは、医師の処方箋が必要な医薬品ですが、産婦人科・婦人科の他、内科など他の診療科でも取り扱っていることもあります。問診と血圧測定により処方は可能で、内診(腟の中の状態を医師が指で確認して診察すること)は必須ではありません。
一方で、月経トラブルがある場合、 エコー検査(腟の中に細長い専用の機械を挿入し、子宮や卵巣などを見る検査)をして、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気の有無をチェックすることができます。性経験がない方や心配な場合は、肛門やお腹からエコー検査をする方法もあり、主治医に相談してみましょう。
Q.低用量ピルを飲み忘れたらどうしたらいい?
低用量ピルの飲み忘れがあると避妊効果は減弱します。内服後3時間以内に嘔吐や下痢があった場合も追加の内服が必要です。また、消退出血の期間よりも前に不正出血が起こることもあります。
▷1錠の飲み忘れ:
・気づいた時に1錠+いつもの時間に1錠内服
・翌日以降は、1日1錠通常通り内服で避妊効果は持続
▷ 2錠以上の飲み忘れ:
・気づいた時に2錠+性交時には緊急避妊薬を検討 ※1
・翌日以降は、1日1錠通常通り内服 ※2
・7日間継続でピルを内服するまで他の避妊法を併用
※1 シートの1週目で2錠以上飲み忘れがあり、直近5日以内に性行為があれば緊急避妊を検討します。1週目での飲み忘れがなければ、基本的には緊急避妊は不要です。
※2 経口避妊薬の添付文書では2錠以上の飲み忘れは服用を中止し、次の月経開始から新しいシートのピルを内服する説明がされています。こちらの対応も間違いではありませんが、次の服用タイミングが分かりづらく、服用の継続が難しくなる場合もあるため、上記の方法を紹介しています。
Q.休薬期間後の1錠目を飲み忘れてしまった。避妊効果は続くの?
休薬期間が終わった後、新しいシートの1錠目を飲み忘れてしまった場合は、排卵が起こり、避妊効果が下がる可能性があります。
休薬期間中や、飲み始めの1週目に避妊が不十分な性行為があれば、緊急避妊が必要です。
気づいた当日に2錠内服し、翌日から1日1錠の服用を開始して7日間連続で服用ができれば、避妊効果が得られると考えられます。
Q.休薬期間になっても出血がない…これって妊娠している?
低用量ピルを服用していると子宮の内膜が薄くなり、妊娠していなくても、生理(消退出血)がおこらないこともあります。一方で、低用量ピルの1年間の避妊失敗率は理想的な使用で0.3%、一般的な使用で7%と言われています。妊娠していると、消退出血がおこりません。そのため、休薬期間が終わっても消退出血がない場合は、市販の妊娠検査薬で確認をするか、かかりつけ医を受診し、妊娠をしていないか確認をしましょう。もし妊娠検査薬で陽性の反応が出たら、できるだけ早く産婦人科・婦人科を受診しましょう。
Q.低用量ピル服用中に休薬期間前なのに出血が起こった。きちんと避妊できている?どうしたらいい?
低用量ピルの内服中に、ピル飲み忘れや生活習慣の変化、ホルモンバランスの変動から、不正出血(月経以外の出血)が起こることがあります。通常は出血量は月経よりも少なく、ピルの服用を続けることで少なくなっていくと言われています。低用量ピル服用中に不正出血があったとしても、避妊効果への影響はなく、そのまま服用を続けてもらって大丈夫です。
また、服用する時間をできるだけ毎日同じ時間にそろえることで改善することもあります。
なお、低用量ピルには、いくつか薬の選択肢があり、薬の種類を変えることで改善されるケースもあります。ただ不正出血の原因は、様々なケースが考えられるため、まずはかかりつけ医にご相談ください。
Q.低用量ピルで月経移動をするのはどうしたらいい?
▷月経日を早める場合
低用量ピルで月経日を早める場合には、10日以上連続して内服したあとに服用を中止します。中止して2~5日後に生理(消退出血)が始まります。あまった錠剤は、月経日を遅らせる用に保管しておくことができます。7日間休薬したら、新しいシートの1錠目から飲み始めます。
▷月経日を遅らせる場合
月経日を遅らせる場合には、3週目の錠剤を飲み終わったら、休薬期間を持たず、次の低用量ピルのシートの3週目の錠剤を続けて服用します。服用をやめて2~3日で月経が来ます。7日間休薬したら、新しいシートの1錠目から飲み始めます。
低用量ピルで月経を調整可能なのは1週間前後です。
低用量ピルを休薬期間を持たず、連続服用することや、中用量ピルで月経移動をさせる方法もあります。詳しくは、産婦人科・婦人科等でご相談ください。
Q.男性は低用量ピルを飲んだらどうなるの?
体の性が男性の人が低用量ピルを飲んでも、1-2錠なら何も起こりません。また男性が低用量ピルを服用することでは、避妊効果は期待できません。体の性が男性の人が使える避妊法としては、コンドームがあり、性感染症予防にも有効です。そして、場合によっては女性ホルモンにより健康を害する可能性があるため、低用量ピルは医師から処方された本人が服用しましょう。
また、低用量ピルは、トランスジェンダー女性の人が自分の体を女性に近づけるホルモン療法とは成分が異なります。そのような治療を希望する場合は、専門の医療機関に相談しましょう。海外では男性用の避妊用ピルも開発されているようですが、まだ実用化はしていません。
参考:
https://www.plannedparenthood.org/learn/ask-experts/what-happens-if-a-guy-takes-birth-control
【参考文献】
・日本産科婦人科学会『OC・LEPガイドライン2020年度版』
・ 柴田綾子著『明日からできる!ウィメンズヘルスケアマスト&ミニマム』(診断と治療社)
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