中絶とは、妊娠を人工的に中断する医療的な処置のこと。
意図しない妊娠は起こり得ることであり、
中絶を望む人が、安心して質の高いケアを受けられることが大切です。
1.中絶(人工妊娠中絶)とは?
2.中絶の時期と方法
3.中絶薬とは?
4.日本と世界における中絶の現状
1. 中絶(人工妊娠中絶)とは?
中絶とは、妊娠を人工的に中断することです。胎児が子宮の外で生活できない妊娠22週未満(妊娠21週6日まで)にかぎり、母体の経済的・身体的理由により妊娠継続が難しい場合や性被害にあった場合には母体保護法指定医のもとで認められています。妊娠22週以降は、中絶は認められていません。妊娠した、もしくは妊娠したかもしれないけれど、生み育てることが難しくて悩んでいる方も、妊娠の相談機関で相談や支援を受けられます。
⇒妊娠についての相談機関はこちら
中絶には、基本的には本人と配偶者の同意書が必要です。未婚の場合、母体保護法上、相手の男性の同意は基本的に不要です。また、性暴力によって妊娠した場合や、DV(ドメスティックバイオレンス)などで婚姻関係が事実上破綻し、配偶者の同意を得ることが困難な場合については同意は不要とされています。
しかし、医療機関によっては、相手の男性の同意書を求めたり、未成年の場合は、保護者の同意書を求めたりすることもあります。こまった場合は、他の医療機関にもあたってみたり、妊娠相談窓口へ相談することができます。
参考:
配偶者の同意に関する日本医師会の疑義解釈照会文とその回答(日本産婦人科医会, 令和 3 年 3 月 16 日 )
「母体保護法の施行について」の一部改正について(通知)(厚生労働省, 令和 2年1 0月2 0日 )
2. 中絶の時期と方法
中絶は時期によって方法や、心身への影響にも違いがあります。
※妊娠週数は、最後に月経があった初日を「0週0日」として数えます。
- 初期中絶:妊娠12週未満
前日または当日に子宮頸管(子宮頸部の子宮と腟をつなぐ部分)を広げ、麻酔をかけて子宮内掻爬*(そうは;子宮の中を金属製のスプーンのような器具でかきだす処置)・もしくは吸引の処置をします。掻爬・吸引が併用となる場合もあります。手術費用は7万円~15万円ほどです。多くの場合日帰りから1泊の入院で可能です。
*WHOは掻爬(そうは)法や金属の吸引管を用いた電動吸引法よりも、シリコン製の吸引管を備えた専用の器具による手動真空吸引法(MVA)をより安全な方法として推奨しています。
*妊娠9週0日までに限り、妊娠を人工的にとめる中絶薬が指定された医療機関で処方を受けることができます。詳しくは、下記の「中絶薬」の項目もご覧ください。
- 中期中絶:妊娠12週~22週未満
前日に子宮頸管を広げ、人工的に陣痛を起こし、流産をさせる処置をします。
入院(一般的には3~4日ほどですが、状況によって異なります)が必要で、費用は30~50万円ほどですが、出産育児一時金(50万円)の支給対象にもなります。 妊娠12週以降に中絶した場合は、死産届を役所に提出し、胎児の埋葬許可証をもらう必要があります。 妊娠22週を過ぎると中絶はできません。
なお、中絶やその前後の診療にはほとんどの場合保険適用はされないので、全額自己負担となります。医療機関によって金額が変わるので、事前に確認しておきましょう。
中絶手術は、時期が遅くなるほど女性への心と身体への負担も大きくなります。また、妊娠週数によっては法律上は認められる期間であっても、病院側から手術を断られるケースもあります。妊娠が分かったら、産む・産まないを決めるリミットがあり、その決断は早い方がよいことを知っておきましょう。
中絶は女性の健康を守る選択肢です。そして、これまでの避妊やパートナーとの関係の見直しや、自分自身がどんな人生を送りたいかを考えていく機会にしていくように考えてみてはと思います。
中絶後の影響は?
<からだへの影響>
中絶を受ける時期は早い方がからだへの影響は少ないと言われています。中絶後も適切に診察を受けていれば、将来の妊娠についてあまり心配はいりません。ただ、麻酔を使う場合は麻酔による影響、方法によっては子宮を傷つけてしまうこと、子宮内容物の一部が残ってしまうこと、大量出血、性感染症が広がってしまうことなどのリスクもないとは言いきれません。不安なことがあれば、医師・医療従事者の説明をしっかり聞きましょう。
<こころへの影響>
中絶の後に、精神的に不安定になったり、うつや精神的な苦痛から学校や仕事に行くことや普段の生活が難しくなること、パートナーや関係に変化が起きることもあります。
性行為をすればだれにでも妊娠の可能性と責任がともなうこと、妊娠する女性の体を持つ人に大きな負担をかけることを、性別にかかわらず知ることが大切です。そして、中絶を選択したことは誰からも責められることなく、尊重されるべき決断です。こころへの影響があったり悩んでいる人は、カウンセリングを受けたり、自助グループなども活用し、自分の心を休め、今後の生き方やパートナーとの関係性、避妊について考える機会につなげていくことができます。
<中絶後の過ごし方>
中絶後の数日間~10日間程度は、個人差はありますが、少量の出血や痛みがあることもあります。また、ホルモンバランスがくずれることからめまいや頭痛がある場合もあります。感染症を防ぐため、病院からもらった薬をかならず飲み、ナプキンをこまめに取り替えましょう。数日間は仕事や学校を休んで安静にし、体をやすませましょう。
性行為やアルコールは、少なくとも出血が止まるまでは控えたほうが安全です。中絶の1週間後くらいに再度診察を受け、経過を確認しましょう。4週~6週程度で次の月経がきます。低用量ピルやIUD/IUSなど確実にできる避妊法についてもぜひ検討してみてください。
参考:
女性のからだ情報「中絶(人工妊娠中絶)~からだと心のケアをしっかりと~」(日本家族計画協会)
女性の健康Q&A 妊娠・出産 (日本産婦人科医会)
また、下記の安全な中絶と流産について適切な情報を伝えるためのWEBサイトも参考にしてみてください。
⇒ Safe Abortion(セーフアボーション )Japan Project
3.中絶薬とは?
経口中絶薬(飲む中絶薬)とは妊娠の継続を止めて、排出を促す働きにより、手術を伴わず妊娠を終わらせることが可能な薬のことです。
2023年4月に厚生労働省は日本では初めてとなる経口中絶薬の英製薬会社「ラインファーマ」が開発した人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」を正式承認しました。
「メフィーゴパック」は、妊娠9週0日までに「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」という2種類の薬を順番に服用する方法で使う中絶薬です。
日本での治験では、妊娠63日以内の患者の投与後24時間以内の薬剤による中絶成功率は93.3%で、有効性および安全性が確認されたとしています。ただし、子宮外妊娠には使えません。
中絶薬を飲むと、妊娠の継続を止めて、排出を促すため、腟からの出血と生理痛のような腹痛があります。治験では主な副作用として腹痛が30%、嘔吐が20.8%みられましたが、軽度から中程度で長く続くものではありませんでした。一方で、中絶薬を服用した6.7%が妊娠が継続していることがあり、その場合は、追加で処置が必要になりました。
中絶薬承認にともなう課題として下記のような項目が挙げられます。
①価格
WHOによる飲む中絶薬の卸売の平均価格は1000円程度で、WHOは中絶薬を安全性と質が高く誰もがアクセス可能な価格であるべき「必須医薬品薬」としていますが、日本産婦人科医会によると、薬の処方と管理には手術と同等の10万円程度の料金設定(保険適用外)が望ましいとしています。
②配偶者同意
厚生労働省は中絶薬の服用にも胎児の生命尊重の観点から、「配偶者の同意」(妊娠している女性の夫や事実婚のパートナーなど)が必要としてます。
※中絶に「配偶者同意」が必要、つまり妊娠した女性だけの意思で中絶をすることが出来ないのは世界203ヵ国中で、日本を含めて11ヵ国・地域のみです。
③入院が必要である・中絶ができる施設が限定される
アメリカ等諸外国では自宅等からの中絶薬の遠隔診療が進んでいますが、一方で、日本国内の議論では、安全に薬を使用できる環境が整うまで緊急時に適切な対応を取れるように、中絶薬が使われるのは、入院が可能な医療機関に限られるとされています。また中絶薬を使用可能なのは、中絶手術を行う資格がある医師(母体保護法指定医)に限られています。
今後の国の議論の動向が注目されます。
参考:
厚生労働省 いわゆる経口中絶薬「メフィーゴパック」の適正使用等について
ラインファーマ 中絶薬が使える医療機関リスト
4.日本と世界の中絶の現状
日本の中絶件数は年間約12万6000件。(2021年度厚生労働省)
20代が最も多く約5万7000件で、10代は約9000件、その内15歳以下は約400件となっています。
刑法には堕胎罪があり、母体保護法で定められた要件の範囲内で中絶をすることができます。
海外では1988年から中絶薬が使われており、約100か国で承認されています。今回日本で申請された種類の薬も約80か国で認められており、オンラインで診察・処方している国もあります。
中絶薬は掻爬(そうは)法による手術に比べて子宮を傷つけるリスクが低いとされており、WHOは中絶薬を安全で効果的で、誰もがアクセス可能な価格であるべき必須医薬品に指定しています。
※米国では中絶薬を使った中絶が全体の約4〜5割、英国では約7割(約4割が自宅での服用)を占めています。
また、WHOは中絶ケアに関するガイドラインを発表しています。中絶を希望する人の価値観と意向を中心に据えたケアが重要であるとして、人権の尊重、経口中絶薬へのアクセス改善や正確な中絶の情報提供を推奨しています。このガイドラインはWHOの許可を得て日本語訳され、日本助産学会の監訳でリプラ(リプロダクティブライツ情報発信チーム)が公開しています。
中絶ケアガイドラインエグゼクティブサマリー日本語訳はこちら
若い人だけではない中絶の現状
日本における2021年度の中絶の年代別の割合では、
10代…7%
20代…45%
30代…37%
40代…11%
と、30代以降の中絶も半数程度となっています。また、未婚の人だけではなく、既婚の人が中絶することもあります。
中絶は女性の権利であり、重要なヘルスケアの一つですが、心身への負担もかかり、今後のライフプランや避妊、パートナーとの関係性について考えていく必要があります。出産経験のある人に適していて、数年単位で避妊効果が続くミレーナ(IUS)や、男性の避妊手術であるパイプカットなどの方法もあります。
また、海外では、IUD/IUSやインプラントといったLARC(長期作用型可逆的避妊; long-acting reversible contraception)が推奨されていますが、日本では未認可の方法もあり、避妊の選択肢が十分に保障されていない社会の現状があります。
⇒詳細は、避妊へ
セクシュアル・リプロダクティブヘルス&ライツについて
「セクシュアル・リプロダクティブ&ヘルス(Sexual Reproductive Health & Rights / SRHR)」とは、「性と生殖に関する健康と権利」と訳され、「人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力を持ち、子どもをいつ持つか持たないか、何人持つかを決める自由をもつこと」を意味します。
具体的には、「すべてのカップルと個人が、自分たちの子どもの数・出産間隔、出産する時期を自由にかつ責任をもって決定でき、そのための情報と手段を得ることができるという権利。また、差別、強制、暴力を受けることなく生殖に関する決定を行う権利も含まれる。さらに、女性が安全に妊娠・出産を享受でき、また健康な子どもを持てる最善の機会を得られるような適切なヘルスケア・サービスを利用できる権利が含まれる」(「国際保健用語集」より)ことです。
また、最近では、「セクシュアル・ヘルス」の定義として、「性的存在に付随する身体的、 情緒的、 知的、 社会的側面を統合したもので、人格やコミュニケーションや愛情を豊かにし高めるもの。 (中略)このようにセクシュアル・ヘルスの概念は、 人間のセクシュアリティについて積極的に取り組むことを意味する。 またセクシュアル・ヘルスケアは、 単に妊娠・出産や性感染症に関する相談とケアにとどまらず、 人生と人間関係を豊かにするものであるべきである」(「IPPF セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス用語検索サイト」より)とされています。
世界性の健康学会(WAS)では、「性の健康宣言」を提唱しています。
どのようにセクシュアル・リプロダクティブヘルス&ライツを実現していくかは、日本における重要な課題として挙げられます。
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